「相思相恋」


 いつものように混み合った夕暮れの中央線。ドア近くの窓に右肩をもたれて立つ彼女と向き合って、
彼は吊り革につかまりながらこんなふうに切り出した。

彼:「昨日、君が夢に出てきた。」

彼女:(少しうつむいてしばらく考えたあと)「ねえ、こんな話、聞いたことない? 『源氏物語』の中にも
あるんだけど、その時代の人たちは、夢に出てくる人の方が、夢を見ている人のことを想ってるって、
信じてたんだって…。」

 Maybe the best moment of their life.